もし、ソ連が人類初の月面着陸を成し遂げていたら——。
たった一点、この「改変」から物語は始まる。
1969年、アポロ11号が月に辿り着く前に、ソ連の宇宙飛行士がそこに立っていた——そんな世界線を舞台に、宇宙開発競争が終わらなかったら歴史はどう変わっていたかを描く、Apple TV+の超弩級SFドラマが「フォー・オール・マンカインド」だ。
終わらない冷戦、黒人宇宙飛行士の登用、女性が月面に立つ日、女性大統領のゲイ発言、そして初の火星着陸を北朝鮮が成し遂げる衝撃——マクロの歴史改変が容赦なく展開される一方、宇宙飛行士たちの夫婦関係、親子の確執、友情と裏切りというミクロの人間ドラマが、同じ重量で描かれる。架空の歴史を使うことで、現実の歴史が「なぜそうなったのか」「何が変わらないのか」を逆照射してくる。これがいい。
各シーズンがほぼ10年ずつ時代を進める構成も秀逸で、シーズンを追うごとに登場人物たちは老いていく。宇宙飛行士だった父親が、やがて子どもたちの選択を黙って見守る側になっていく——時の移ろいが、静かに胸に刺さる。月から火星へ、舞台が宇宙の深部に移るほどにドラマのスケールも増す。セットと映像は一流で、1960~70年代の再現から宇宙船のリアルな描写まで、予算と手間のかかり方が作品にとんでもないリアリティを与えている。
同じApple TV+には「窓際のスパイ」(原題:Slow Horses)という英国諜報機関ものの傑作もある。こちらはゲイリー・オールドマンが演じる問題児スパイたちの群像劇で、地味な出来損ない部署が本流の陰謀に巻き込まれていく展開と緊張感が絶品だ。Apple TV+はNetflixのようにコンテンツの量で勝負するプラットフォームではない。だが作品の知的密度と映像クオリティで言えば、いまストリーミング界でもっともホットだ。
「フォー・オール・マンカインド」は現在シーズン5が配信中。凡百のドラマを蹴散らす傑作が、驚くほど静かに続いている。まだ観ていないなら、今すぐシーズン1の1話目を。親子で観るなら、ぜひ第2シーズンまで。父と子が、それぞれの「宇宙」を生きる姿が知的興奮を呼ぶ。
作品データ
For All Mankind(フォー・オール・マンカインド)
Apple TV+ / 2019〜
制作:ロナルド・D・ムーア、ベン・ネディヴィ、マット・ウォルパート / Apple TV+ 独占配信
| ジャンル | SFドラマ/歴史改変ドラマ |
|---|---|
| テーマ | 家族、世代継承、挑戦、人類の未来 |
| 親子度 | ★★★★★ |
| 知的興奮度 | ★★★★★ |
| 宇宙開発度 | ★★★★★ |
| おすすめ | 親子でSFや宇宙開発に興味がある人、歴史の「もしも」を考えるのが好きな人 |
関 悟のひと言
人類は月へ向かったが、親は子へ、子はまた次の世代へ向かっていく。宇宙開発史の壮大な“もしも”を描きながら、結局この物語が見つめているのは、親から子へ受け継がれていく夢なのだ。







































