17年前、当時全国最高齢(101歳)の篤志面接委員、黒田久子さんと対談した。姫路少年刑務所で47年間、3000回超の受刑者面接をし社会復帰をサポート。小柄な黒田さんが、罪を犯した若者たちに、真摯に向き合う姿に感動した。

まもなく出所する受刑者一人ひとりに「一生懸命育ててもらったのにこんなことになって、親の苦労もわからんと。親はな、どんな子も待ってくれるんや。わがままは許せへんで」と、本気で叱る人だった。

だが受刑者には、待っていてくれる親がない人も、親に愛されたことがない人も、少なくない。
奈良少年刑務所詩集『空が青いから白をえらんだのです』(寮美千子著/新潮文庫)を読んだ。詩の作者は、強盗、殺人、レイプ…凶悪な罪を犯した受刑者の言葉とは思えないほど、やさしい作品ばかり。
著者の寮美千子さんは、奈良刑務所から依頼され、受刑者の更生プログラムとして、童話や詩を使った授業を担当。3回の授業では童話を読み、詩を書き、みんなで読み合った。それだけで、受刑者たちが驚くほど変わっていったという。
詩を書く時間は、唯一自分と向き合う時間。大切なのは、彼らが綴った言葉を、仲間と共有すること。読み合う中で、一人ひとりが主役となり、さらに仲間が共感してくれる。彼らは、そのとき、生まれてはじめて人に認められる経験をするのだと。
家庭では育児放棄を受け、学校では落ちこぼれの問題児といわれ、心が育たないまま悪の道へ。
中にこんなエピソードがあった。童謡の授業で『ぞうさん』を歌おうとしたとき、「歌を知らない」と拒んだ彼は、幼稚園にも小学校にも行っていなかった。「ぞうさんの歌も知らないまま育つ子どもがいるなんて…」著者は、言葉を失ったという。
孤立した社会の中、親の虐待や学校でのいじめなどで、心に傷を負う子どもたちがどれほどいるだろうか。本来なら家庭が、わが子の一番のセーフティネットであるはずなのに…。
ぞうさん/ぞうさん/おはなが ながいのね/そうよ/  かあさんも/ながいのよ」には、「鼻が長くて変だねと言われても大丈夫。かあさんと同じだよ」と、偏見に負けない心を、子に伝える母
作者のまど・みちおさんは私たちに、お母さんが守ってあげれば、子どもは安心して生きていけると、教えてくれている。
詩集『空が青いから~』に並ぶ、母をうたった詩の数々。みんなこんなにも母さんが好きなんだと、子の愛を知って、涙があふれた。

(藤本裕子)

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