今回紹介する親子映画は「君が生きた証」。2014年のアメリカ映画で日本公開は2015年です。

タイトルを聞いて「?」と思った方も多いかもしれません。かくいう私も公開時には見損なってしまい、DVDで鑑賞し公開時に鑑賞しなかったことを大いに悔やんだ作品なのです。ですので、ここで声を大にして言いますが、間違いない傑作です。

そして親子映画と言っても、父親と息子の関係が中心となっています。

父親と息子を描いた作品としては、ティム・バートン監督のファンタジー「ビッグフィッシュ」、ナチス収容所での親子愛を描いた「ライフ・イズ・ビューティフル」、ウィル・スミス親子が出演した「幸せのちから」などがすぐに思い出されますが、基本は父息子の確執の修正か、不遇な親子の生きる力などがテーマとなっています。(どれも素晴らしい作品です)。しかし本作は描き方がまったく違います。

なにしろ父親と息子が向かい合うシーンは、ほぼありません。息子を想う父親の一方的な心情が本作の鍵となっているのです。

やり手広告マンのサム(ビリー・クラダップ)が、大口の契約を決めて祝杯を上げようと大学生の息子ジョシュ(マイルズ・ハイザー)を呼び出すところから話は始まります。ところがジョシュは現れず、サムはスポーツバーのテレビに流れたジョシュの大学で銃乱射事件が発生したというニュース速報を見ます。なんと息子は大学の事件で死亡しているのです。

冒頭からスリリングな展開ですが、話はここからです。

絶望した主人公のサムは会社をやめ、ヒッピーのようにボートで暮らし始めます。ある日、別れた妻エイミー(フェリシティ・ハフマン)から息子の遺品を渡され、遺品の中身はジョシュが使っていたギターと録り溜めていた自作曲のデモ音源と歌詞ノート。ジョシュの曲をギターで爪弾くようになったサムは、ある晩ライブバーの飛び入りステージに参加します。

そして話はどんどん意外な展開を見せ始めます。この演奏に感銘を受けた青年に押し切られてサムはバンドを組みます。そして地元で人気バンドになっていくのです。

まったく先の読めないストーリー。ネタバレになるのでこれ以上は書きませんが、さらにトリッキーな展開に驚愕すること間違いありません。そしてその真相こそが、父親をここまで追い込むことになっていたのだと観客は気付かされます。

最後まで見た時、もう一度最初から見たくなる作品が最良の作品だと思いますが、本作はまさにその1本。たとえば、モノクロだった画面が一気にカラーになったように、物語を見る視座が変わります。見事なストーリー展開です。

親子の絆という、悪く言えば手垢のついた展開を裏切りながら、トリッキーなストーリー展開で話に引き込み。新鮮な切り口で親の想いを綴っていきます。男親なら号泣必至です。

監督は、本作が監督デビューとなったウィリアム・H・メイシー。「ファーゴ」「マグノリア」で渋い演技を見せる俳優ですが、監督としても高い手腕を発揮しています。本作ではライブバーの店長役。彼の実生活の奥さんは「デスペラートな妻たち」の年上女房役で人気のフェリシティ・ハフマン。彼女も本作で好演しています。

主演のビリー・クラダップは「ビッグフィッシュ」ではスネた息子役でしたが、本作では、エリートから荒んでいく父親という幅広い役を熱演。最近ではNETFILIX配信の「ジプシー」でナオミ・ワッツの旦那役で複雑な立場を演じています。

つまり本作は、ストーリー、役者、演出、音楽—−−画面を形成するすべてのものが、高いレベルで融合した、大人の鑑賞にふさわしい感動作なのです。

ビターな味がわかるあなたに、オススメです。

 



 

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