その当時、私は、主人の転勤先の大阪で暮らしていた。
慣れない土地、実家は遠く、主人は営業職で日をまたいで帰宅することも多かった。
いわゆるワンオペ状態。
幼い息子はよく熱を出す子どもだった。
その日はとても眠かった。
昨夜も主人の帰宅は遅く、片付けは日をまたいだ。
「寝てていいよ」と言われても、当時は帰りを待って起きていた。
昼寝をしていた息子が目を覚ました。
確か3歳ごろだったと思う。
「かぁか、おきて!すべりだいしたい!」
私は眠くて「もう少しねんね」と返すと、「けんちゃん、ねむくない。おさんぽ行こうよ」と迫ってくる。
「冷蔵庫にプリンあるよ」と言うと、息子は上手に食べ、再び誘いに来た。
まだ寝たい私は、「頭が痛いの。お熱もあるの。トミカのビデオ観てて」と言ってみた。本当は、頭痛も熱もない。仮病を装った。
息子は静かになり、私の側を離れた。
これで20分は寝られると思ったとき、額に冷たいものが。
「かぁかのあたま、いたいのいたいのとんでいけ!これでおねつさがるよ」
息子は冷蔵庫から熱冷ましシートを取り、私に貼ってくれた。
小さな椅子が冷蔵庫の前にあった。
よいしょ、よいしょと運び、背伸びして取った姿が浮かぶ。
静かに涙が出た。罪悪感と、成長への感動で。
「けんちゃん、ありがとう!もう治ったよ。
お散歩行こう。
かぁか今から用意するから待っててね」
玄関で靴を履いた待っていた息子がつぶやいた。
「かぁか、おっそいなぁ。いつまで待たせるんだよぉ」
まさしく主人の口調。
大笑いした。
子どもは親をよく見ている。
小さな手を握り、外へ出た。
もうすぐ二十九歳になる息子。
父親になる日は近いだろう。
きっと優しい父親になると思う。
ただし、お嫁さんの支度はゆっくり待ってあげてね。
松田成江 58歳 三重県津市
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