連日、身体にこたえる暑さが続いていますね。
随分早い夏バテにならないかと心配になってしまいます。
もしもご両親と離れて暮らしている方なら、ちょっと様子が気になってしまいませんか?
「でも電話をするにしても、何か用事がないと・・・。」
そう思っている方の背中を、少しだけ押してあげられたら。
そんな気持ちで、親子の日に送っていただいたエッセイの中からひとつ選んでみました。
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「タンポポの綿毛」
2年ぶりに会う父の姿は、うんと老けて見えた。
頬のしわが一段と深くなり、頭部はまるで、タンポポの綿毛のように白く染め上がていった。
口数が少なく、愚痴をこぼさない父だけれど、仕事と祖母の介護で疲れ切っているのが明確だった。
アジア一危険だと言われる土地に留学し、もう2年が経つ。
父は私のすることに、口を挟んだことは一度もない。
テストで赤点を取ろうが満点を取ろうが、叱ることもほめることもしない。
父親の威厳を見せようともしない。私のことには全く無関心なのだと、当時の私は感じていた。
そんな父が私の目の前で感情を表にするのを、一度だけ見た。
小学3年のころ、新しく買ってもらった真っ白の運動靴を学校にはいていったときのことだ。
真新しいその靴は、虐めっ子に踏みつぶされ、水田へと放り投げられた。
片方の靴紐がなくなり、泥を吸い込み黒くなった靴とともに帰宅した私を見て、父は言った。
「これ、誰がやってん。」
虐められていることを隠していた私は、
「自分で、やってん」と答えた。
すると、父が声を荒げて言った。
「誰がやったんやって聞いてんねん。」
私は初めて怒鳴る父に驚き、正直に答えた。
父は私を引きずって、その虐めっ子の家まで行った。
ガラの悪そうな虐めっ子の親に対して、父は物怖じすることもなく怒鳴りつけた。
その日の夜、私は父の蒲団に潜り込んだ。
今日のことで恨みを買ってしまい、誰かだ父を殺しに来るのではないか。
そういった不安で、胸が痛くなった。私は大きな父の体を抱きしめて、
「絶対に死なんとってな。」と言った。父は、なにも言わずに、少しだけ強く抱きしめ返した。
家を出てから、父との連絡はからっきしだ。
しかし、私は知っている。
本当に折れてしまいそうになった時だけ、さりげなく手を差し伸べてくれる。
それが、私の父だ。私もあんな立派な男に、なれるのだろうか。
ふと鏡を見て、気づいた。私の側頭部に咲く、一本の綿毛。
21歳 男性 兵庫県