海獣の子供
このところ見た映画としては「アベンジャーズ/エンドゲーム」「スパイダーマン:スパイダーバース」「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」とそれなりの話題作はおさえていたのだが、親子というテーマで書くにいたらず、見送っていた。「ゴジラ」はある種、親子映画でもあったが、あまりの不自然なドラマ部分に呆れすぎて筆をとるきがしなかったのだ。
そんな中、友人の映像監督が「もうシビれた〜」と興奮気味で教えてくれたのが本作「海獣の子供」。これは見逃してはならぬとさっそく劇場に足を運んだ。
第38回日本漫画家協会賞優秀賞、第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞に輝いた五十嵐大介による同名の漫画作品を、「マインド・ゲーム」(2004年)、「鉄コン筋クリート」(2006年)など、異色の映像美で多くの作品を手がけてきた「STUDIO4℃」によって製作された劇場長編作品だ。
ストーリーは他人とうまく接することができない中学生の少女・琉花が、ジュゴンに育てられた不思議な2人の少年、“海”“空”と出会って新たな発見をするというファンタジーだ。
平日朝9時前の劇場は7割くらいの入り。しかしこの時間としたら上出来の入りではないだろうか。
まず圧倒されるのは、そのアニメーションのクオリティの高さだ。朝の空気、初夏の太陽、夏草の匂い、そして、昆虫。そんな記憶の中に眠っている感覚が次々と呼び覚まされてくる。主人公が学校からこちらにむかって駆けてくる長いワンシーンは、今までのアニメーションで見たことのなかったシーンだ。
このような瑞瑞しい表現とともに、母親が飲み干したビールの缶がゴミ箱の中から溢れているという描写もある。つまり彼女はけっして単純にハッピーなのではなくどこか病んだ母親と暮らしているのだ。また学校ではクラブ活動で仲間に怪我を負わせてしまい、挙げ句の果てに先生からクラブに来なくていいと言い渡されてしまう
初夏の美しさと対照的に鬱な展開である。ここで主人公最初の試練が見えてくる。
そして、公私ともに上手くいかない彼女が向かったのは、別居している父親が働いている水族館だ。彼女は父に身を寄せようとしたが、果たしてそこで彼女を待っていたのは、ジュゴンによって育てられた少年“海”である。そして、その後“空”とも出会っていく。
ここから物語は、2人にリードされた主人公が大自然の神秘のど真ん中に放り込まれていく展開にある。
ネタバレなので詳細は書かないが、なにしろ怒涛の展開だ。
宇宙の構造、命の螺旋、海と魚と人間、そういう散文的な形而上イメージが、美麗なアニメーションのめくるめく映像によって語られていく。
これはあの「2001年宇宙の旅」のスターゲートのイメージのようでもあり、コヤニスカッティ的でもあり、つまり 人間とは何か宇宙とは何か、我々はどこから来てどこに行くのか、といった根源的な問いを映像にしてくれている。無言だがとても能弁なシーンである。
物語は、主人公が欠落したものを回収したところで終わるのだが、壮大な宇宙とあたりまえの日常の対比が鮮やかである。ぼくらは宇宙を内包して淡々と暮らすのである。
●映画「ドラえもん」や「宇宙兄弟」などを手がけてきた渡辺歩が監督を務め、音楽を久石譲が担当。声の出演は芦田愛菜、ピクサーアニメ「リメンバー・ミー」の吹き替えを務めた石橋陽彩ら。